この夏休みはいつもの西ではなく、北へ車を向けてみました。
友人から、二重にかかる虹の話、ほたるの話、山の頂にかぶる白い雪の話などを聞き、一度訪れてみたかったのです。
まず最初に感じたのは、青い空と緑の山の鮮明なコントラストです。都会では晴れていても常に靄がかかっているようでこんなにくっきりとした色を見ることはありません。それだけ空気が澄んでいるのでしょう。早朝出発の疲れも忘れ、川へ山へ滝へ温泉へと欲張ったスケジュールにもかかわらず大満喫で初日を終えました。
岩肌に朝の陽光があたっている光景を見たくて、翌朝は谷川岳の一の倉沢へ。
眠い目をこすりながらりすが横切る山道をくねくねと走り、到着したときにはあたり一面霧。いったいどんな光景が目の前に広がるのだろうと想像をめぐらせてしばらく朝もやの中、川原の大きな石に座って待っていました。
30分ほどたったでしょうか。霧が流れはじめ、ますは麓の濃い緑が見えてきました。それからはただただその素晴らしさに思わず言葉を失った数十分間でした。
劇場の緞帳が静かに上がるように霧は徐々に晴れていくのです。私たちはこれから大自然が繰り広げようとする戯曲の観客そのものでした。
しばらくすると、その神秘のベールの奥にあった険しい岸壁がすぐ目前に姿をあらわしたのです。「うわー、すごい。」それは想像以上のものでした。こんな威圧感と人をよせつけない厳しさを持った山を見たことがなかったので、そこでまた圧倒です。気がつくと拍手をしていました。
夏の晴れた日限定公演、開演 朝6時半、座席 大きな石 という風変わりな劇場でしたが、こんなに感動的な戯曲はめったに見られません。とても幸運でした。
東京から北へ車で2〜3時間。いつもの穏やかな富士山周辺とはまた違った自然の表情に触れることができ、今回も思いきりリフレッシュしてきたのでした。
(Aug.15.'00)
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