Chic Chicks *Salon de The

- 小さな旅 -

仕事で出かけてちょっと寄り道をした時のことを綴ってみました

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聖人と小鳥たちの丘

アッシジ(イタリア)

  

ウンブリア平野にぽっかりと浮かぶ丘、そこが自然と平和を愛した聖人フランチェスコの町、アッシジです。
私がはじめてここを訪れたのは1年前の同じ頃、碧空に糸杉とオリーブの緑が映える暑い6月でした。

駅前の木にとまった鳥たちのにぎやかな声がアッシジの第一印象でした。なんて鳥の多い町なんでしょう。
しばらく待つとアッシジの町と駅とを結ぶ巡回バスがやってきました。目指すはあの丘です。途中ひまわり畑を抜けてバスは走ります。くねくねと坂道を上り終点のマッティオッティ広場に到着しました。
丘の上、石畳の町は起伏が多く坂道や階段を上ったり下ったり。修復中のサン・ルフィーノ大聖堂からスタートしてサンタ・キアラ教会へ立ち寄り聖フランチェスコ大聖堂へと向かっていくことにしました。

12世紀にこの町で生まれたフランチェスコ、クリスチャンではない私ですが自由と厳格が表裏一体の共存を感じさせる彼の生き方には興味と憧憬を持ってやみません。加えて、同じフランチェスコ会の教会フィレンツェのサンタ・クローチェ、ここに足を踏み入れると毎回感じる深い安心感。それらのルーツを確かめてみたくなりこの丘を訪ねてみることにしました。

全長1kmほどの旧い町は空に近いからでしょうか、ツバメやスズメなど鳥をたくさん見かけます。小鳥にお説教をしたというフランチェスコの逸話も真実味を帯びてきます。
壁にはめこまれた装飾にもフランチェスコを描いたものがほどこされ町全体が今もなお彼と共に生きていることを感じさせられます。

スバシオ山のバラ色の石で造られた聖フランチェスコ大聖堂では知人の紹介で神父さまに案内をしていただきました。ルネッサンス絵画のさきがけであったジョット、チマブイエ、ロレンツェッティ、シモーネ・マルティーニ、、、見ごたえのあるフレスコ画で壁が埋めつくされています。それは見事でした。上部聖堂、夜空の天井の一部に唯一97年の地震の傷跡を感じました。
大聖堂からバス停へと続く坂道、町の人たちが花びらを絨毯のように敷き詰めていました。
初めてのアッシジはサンタ・マリア・デリ・アンジェリ教会の夕刻のミサで終わりました。
その時行けなかった同教会の棘のないバラ園とサン・ダミアーノ修道院、その心残りは再度の訪問を既に決心させていました。

あれから1年、今回はウンブリア平野を包む夜のとばりと澄み渡った朝の空気の中に溶け込んでみることも楽しみにしています。

見覚えのある駅を出て今回最初に出会ったのは小鳥ではなく加古川からという一人旅の若い女性。夢を追いかけてナポリへ行く途中のアッシジ観光とのことでした。一緒に取ることにした夕食の席で目を輝かせながら夢の話を聞かせてくれました。大人の目からはちょっと危なっかしさもありましたが希望にあふれた彼女の話は大空に飛び立たとうとする小鳥を連想させました。

東の門から勾配のきつい坂を下って約1.5km、ぽつんとたたずむ慎ましやかな修道院、そこがサン・ダミアーノでした。フランチェスコの精神を大切に守って生きたキアラをそのまま反映するような。やっぱり訪れる価値はありました。想像していたとおりでした。キアラもこの窓からこの風景を眺めたのでしょうか、このドアノブを握ったのでしょうか、その時彼女は何を思っていたのでしょうか、激怒していた貴族の父上のこと?病の床についたというフランチェスコのこと?想像は時を超えて広がります。

サンタ・マリア・デリ・アンジェリ教会へは巡回バスに乗って下りました。ポルチウンクラとフランチェスコが永遠の眠りについた部屋にしばらく立ち寄ってからロゼートへ。花の時期はつい最近終わってしまったようですが葉やシュートは活き活きとしていました。ガラス越しにじっと見てみましたがやはり棘はありませんでした。

アッシジの夜、神父さまにお誘いいただき他2人の神父さまと4人でサンタ・キアラ教会前広場からの夜景を見に出かけました。途中ごちそうしていただいたジェラートを食べながらの夕涼みです。3人の神父さまは皆さん私服でしたので一見すると全員観光客(?)。さすがに長い神父さまは例え私服でも町の人々にはわかっていましたけれど。暑い夏の夜、町には大勢の人々が出ていました。

アッシジの朝は静かに明けました。まだ観光客のいない大聖堂へ出かけました。早朝6時、フラテ(修道士)たちの朝のお祈りが始まっていました。私は前回に訪れた時からの安らぎの場所、地下礼拝堂で心静かなひとときを過ごしました。
神父さまに案内されて素敵なものを見せていただきました。フラテたちの墓地となっている中庭に作られた「水琴窟」、地中に埋められた甕に水が滴ってかすかな美しい響きを奏でます。この春、京都の庭師さんの手によって設置されたそうです。そこに立つフランチェスコの像が耳を傾けてその音色を楽しんでいる、そう考えてこの場所が選ばれたそうです。こんなに素晴らしいものなのに誰もが自由に立ち入れる場所にないことがちょっと残念と神父さま。私も同意見でした。イタリアで耳にする日本のわびさびの音は理屈なく素敵なのです。

旅の最後、神父さまにフランチェスコが瞑想をしたというカルチェリに連れて行っていただきました。カルチェリまでは山を上りちょっと距離があります。1人では行けないと思っていたので感激でした。今でも周囲は自然のままです。当時はここまで登ってくるだけでも容易ではなかったことと想像できます。糸杉林が深くなり、アッシジよりもさらに高く涼しいせいか蝉は鳴いていませんでした。自然を賛美したフランチェスコにとってはここは鍛錬の場でもあり、反面憩いの場でもあったのかもしれません。各フラテたちが瞑想をした洞窟がそのまま残っていました。神父さまに白い鳩の逸話やエリア会士のお話などを聞かせていただきました。

次回のお楽しみも用意してくださるとおっしゃった神父さまにお別れを告げて仕事の待つフィレンツェへ戻ります。アッシジで出会う出来事はいつも革表紙の本に綴られた物語のよう。不思議な町です。
3度目の訪問も心に決めています。さて次回はどんな物語が待ち受けているのでしょう?

(Jul.28.'03記)

● バックナンバー ●
静かなる湖畔のひととき(トラジメーノ湖 - イタリア)(Jun.26.'03)
中世へのタイムトリップ(シエナ - イタリア)(Jun.18.'01)

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