未来を背負う子ども達
この夏休みにNHKで「7年ごとの成長記録」という、とても興味深いプログラムが４回に渡って放映されました。
日本、アメリカ、旧ソ連、イギリスの子ども達の成長過程を７才から７年ごとに追っていくというもので、イギリスを除いた３カ国の子ども達は現在14才でした。
アメリカではNY、シカゴ、LAの上流階級、中流階級、労働者階級、ホームレス、移民とあらゆる環境におかれた子ども達が対象でした。
労働者家庭の7才の黒人少女に、善い人と悪い人の見分け方を尋ねると、「それは人への接し方でわかるわ」とさらっと答えました。人種差別は幼い子どもにこんな知恵を授けました。心に刺さる言葉です。
シカゴの貧しい7才の少女は、「お金持ちは貧乏な人にお金を恵むべき？」の質問に「その必要はないわ。貧乏がいやだったら努力すべきよ」。この前向きな答えには敬服してしまいます。
また、麻薬中毒だった母親とホームレスの人々の施設で育ったヒスパニックの少年は、「みんなはまわりと同じようになると言うけれど、僕はそうでないことを証明する。」と。
アメリカの子ども達は、どんな環境にあっても常に将来の夢をしっかりと抱き、努力次第で夢は実現すると確信していました。そして彼らは積極的にそれぞれの「幸せ」を求めていました。
旧ソ連の子ども達は、社会主義から資本主義への大きな政変で、過渡期の渦に巻き込まれていました。
自己実現へ歩を進めているアメリカの子ども達とは対照的に、旧ソ連の子供たちの共通の願いは、貧富にかかわりなく国家の平和でした。
今もなお民族的な武力抗争が絶えず、資本主義への移行で自由は得たものの経済的には以前より苦しくなったといいます。
驚いたのは、7才の時にあどけない顔でインタビューに答えていた14〜15人の内、14才の時点で自殺未遂経験者の少女が２人、難民キャンプから行方不明になってしまった少年が１人いたことです。
また、戦争で親を亡くし、孤児院からこの番組がきっかけでアメリカに養子に行った男の子は、里親との心のすれ違いに辛い涙を流していました。
同じ時代を生きていても、生まれた国によって、こうも背負うものが違ってきてしまうのでしょうか。当たり前と思っていた平和の重さをずっしりと受けとめました。
国家全体がこれからどうなるかわからない、そんな見通しの悪い霧の中で子ども達は自分達の居場所を一所懸命探していました。それでも彼らの胸の奥底には、受身ながらも凛とした希望が秘められていました。
残念ながら日本編はほとんど見られませんでした。日本の子供たちはどういう考えを持って今を生きているのでしょう？
イギリスの子供たちは、すでに42才になっていました。私たちと同世代です。さて、7才の夢はどうなったのでしょう？
7才の夢の１つ、競馬の騎手を14才で実現した少年は、その後の挫折で、28才からはもう１つの夢であったタクシーの運転手になっていました。目下は家作りと子育てが彼の人生。
アフリカへ行って文明を教えたいと行っていた少年は、オックスフォード在学中は教師にはならないと言いながら、35才にはバングラデシュで教壇に立っていました。42才で遅い結婚をし、今はロンドンの工業地区で先生をしています。
有名パブリックスクール在学中から弁護士になると言っていた少年は、オックスフォードを卒業後に夢を実現し、現在では独立して事務所をかまえています。
7才、14才とオックスフォードへ入学してエリートになることを夢見ていた少年は、受験に失敗して希望を失ってしまいました。21才には建設現場で働きながらも政治にかかわりたいと言っていましたが、28才の彼はホームレスになっていました。その彼が、42才には市議会議員になり、二期連続当選を果たしていました。
この結果には驚きました。近道、回り道の差こそあれ、ほとんどの7才の夢は42才の将来に何らかの形でつながっていました。
42才の彼らは口を揃えて最後に言いました。「この企画は私の人生にずっと重荷でした」。このプレッシャーが彼らの原動力になったのでしょうか。いずれにしても、夢は実現し得ることが証明されました。
どうやら、未来を背負う子どもたちのエネルギーは、夢や希望から生まれてくるようです。私たち大人は、それらをつぶすことなくそっと見守っていける環境だけは用意しておいてやりたいものです。
さて、あなたの7才の夢は今どこにありますか？
（Aug.24.'99）
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