イタリア・ルネサンス発祥の地フィレンツェは、その小さな街全体がアートです。
バランスのいいゴシックやルネサンスの建築物から始まり、路地の石畳、石壁についた街路灯からウィンドウに並ぶお菓子まで・・・
あらゆるものがそれぞれにその芸術性を誇っているかのようです。
自分の足の下にある石畳をかつてミケランジェロやダ・ヴィンチ、ブルネレスキが歩いたかもしれないと思うだけでとても不思議な気持ちになります。
これはイタリア人建築家の友人に聞いた興味深いお話です。
フィレンツェのランドマーク、赤レンガの丸い屋根といえばドゥオモ(Santa Maria del Fiore)ですが、ここの大円蓋にはガイドブックにのっていないエピソードがあります。
ドゥオモはブルネレスキの傑作と言われ、見上げるとその高い丸天井には「最期の審判」の見事なフレスコ画が描かれています。ドゥオモが建築されたのは15世紀ですが、当時の建築技術でこれだけのものができたというのは今でも謎のようです。
ところが完璧に計算して建築したつもりでも、まだまだ未完成の時代。気候によって大円蓋が膨張することを計算に入れていなかったのです。後になってから夏になると丸天井に亀裂ができてしまうことがわかりました。
その時彼らはどうしたと思いますか?
何とその亀裂部分をイエス・キリストから流れる血に見たててフレスコ画を描いたそうです。イエスさまはお気の毒に、夏になるとたくさんの血を流されるということです。
優雅で緻密なルネサンス時代のこういうごまかしを聞き、ちょっと親近感を覚えてしまいました。
友人は大学院時代、ドゥオモの修復工事中に設置されていたエレベーターですぐそばまで行って見てきたと言っていたので本当でしょう。
こんなことも知りながら街を散策し、疲れたらバールに入ってドルチェとカプチーノ。すると今度は口いっぱいにアートが広がるのです。
(Jan.25.'00)
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